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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』62

last update Last Updated: 2025-01-23 16:39:19

   *

七月になっていた。

スタジオ収録を終えて事務所によると、大樹が休憩室にいた。

コーヒーメーカーと冷蔵庫。ソファーにローテーブルがあるだけの狭い部屋だ。

「お疲れ様」

「おう」

大樹の隣に座った俺は、コーヒーを飲んで目を閉じる。

「赤坂の好きな子って……心臓病なんだってな」

「ああ、美羽ちゃんから聞いた?」

「もしかして、妹の舞ちゃんと一緒にライブに来ていた子?」

「正解」

「移植費用……赤坂が出したのか?」

「まあな」

「だから、仕事やりまくってたんだな」

「当たり前。好きな人の命は俺が守る」

「言ってくれたら募金とか、協力したのに」

俺は大樹の気持ちはありがたいと思ったが、睨みつける。

「もしも、美羽ちゃんが一刻も争う状況だったとしたら。募金なんて呑気なこと言ってられないだろ」

「………ごめん。だな」

反省したようにうなだれていた。

「もう大丈夫だ。移植は成功したから、帰って来るのを待つだけだ」

「それはよかった」

自分のことのように喜んでくれる大樹のことを俺は大親友だと思っている。運命に導かれて俺たちCOLORは結成したのだ。

俺はデビュー前に大澤社長に声をかけられた。ファーストフードのカウンターに座って外を眺めながらぼんやりとハンバーガーを食べていた時だ。

ガラス越しに急に俺の前に立ち止まった女性が俺に向かって指をさしてきた。意味がわからなくてきょとんとしていると店内に入り込んできて突然熱く事務所に入らないかと誘ってきたのだ。

何かの勧誘かと思って話を聞いていなかったがこの一言が決めてだった。

『あなたの人生変えてみない? カラフルな世界を見ることができると思うわよ』

まったく知らないもの同士が集められて結成したCOLORだが、今では世界一信頼できる仲間となっている。

「付き合ってはいないの?」

大樹の質問に俺は情けなくなる。まだ久実は俺の女じゃないのだ。

「ああ……。何度か伝えているんだけど……どうしても受け入れてもらえなくてさ」

「純愛だな……」

「大樹には負けるけど」

大樹は笑う。そしてすぐ真面目な視線になった。

「告白しないの?」

「戻ってきたらするけど。あいつは俺のことどう思ってんのか。ファン以上になりたくないのか、わからないんだよね」

俺と久実が恋人になれる日は来るのだろうか。

歳の差だってあるし、俺のことをどう思っているのかさっぱりわ
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